起業前 / 学生時代から
通学電車とライブハウスの間で
高校生の前澤友作にとって、音楽は授業の外側で育つ大きな関心だった。早稲田実業へ通いながらバンド活動へ引かれ、大学へ進学する道とは別の将来を選んでいく。本人のインタビューには、通学やアルバイト、スタジオやライブに時間を使った学生時代が語られている。後のファッション通販企業の原点は、まず好きな文化に深く入っていった生活にあった。
卒業後、米国へ渡る。そこで接したのは、音楽が演奏の時間だけに閉じていない文化だった。レコードやCD、Tシャツなどが人の間を渡り、会場の外にもその音楽を好きな人のつながりがある。日本では見つけにくい作品を手に入れることも、音楽を楽しむ行為の一部になっていた。
渡米の動機には、本人の語りの中でも複数の面がある。だから、この旅を最初から通販事業のために計画した視察としては描かない。学生時代から続く音楽への関心、海外での暮らしや出会い、手にした品物。それらが帰国後の活動と結びついて、後から商売の輪郭ができていく。
前澤の出発点を、趣味が偶然お金になっただけの幸運と見てしまうと、その後の仕事が見えにくい。一方、最初から巨大市場を狙った緻密な計画と見るのも違う。自分が欲しいものを知り、同じものを欲しがる人がいると気づき、それを手に入れて届ける。この小さな往復の中に、商売を始めるための、具体的な相手がいた。
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起業後の時間を、もう一歩先まで
前澤が発表していた月周回計画dearMoonは、2024年6月に中止が公表された。予定していた時期の実施がかなわず、近い将来の見通しも明確でなかったことが、公式の説明にある。ISSへの渡航が実現したことと、この月周回計画が実現したことを混同してはいけない。大きな資金と意志があっても、他の開発や時期に依存する計画には、自分だけでは決められない条件がある。
同じ2024年には、カブ&ピースによる生活インフラ関連サービス「カブアンド」の開始が発表された。利用と株式の申し込みを組み合わせ、利用者が会社の未公開株を受け取る仕組みを打ち出す。好きな商品を買ってもらう商売から、日常の利用と会社への参加を結びつける仕組みへ、再び事業の発想が移る。
これは新事業の紹介であって、その株式の将来価値や事業の成功を保証する話ではない。ここでも、構想として魅力があることと、継続する事業として結果が出ることの間には時間がある。起業家の次の一手を読む面白さは、その間の距離まで眺めることにある。
前澤の物語を学生時代から通して見ると、好きなものへ近づく行動が、何度も商売の形を変えている。カタログを送る、ネットの店を作る、ブランドを集める、物流を整える、経営を渡す、別の事業を始める。そのすべてが同じ成功の延長だったわけではない。変わらない好奇心と、変えざるを得なかった方法。その二つが、長い起業後の時間を作っている。
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